彼女の見た夢

泣きじゃくる声に目を覚まされて、その様子が尋常じゃないもんだから、尋ねてみると、「死んじゃったー!」ということらしくて、手の甲で両目をこすりながら、子供みたいな泣き方をしているのは、お父さんの夢でも見たのだろう。そう思って問いただすと、死んだのは僕で、何らかしらのことから逃げ遅れたのだという。なんだこれは。
「なんか戦争か何かが起こってね、○○のことを呼んだんだけど、探してもどこにもいない」
なんだこれは。
「○○がまだ来ないのに、避難用のロケットが出ちゃうから、探したんだけど、いないの。それでね、ロケットが出ちゃって、私は助かったけど、○○は死んじゃったの…っ!」
なんだこれは。
夢の余韻が覚めやらぬらしく、僕は目の前で健在だというのに、「死んじゃったー」と泣きじゃくるのをやめてくれない。
これは面倒くさいことになったと思いつつ、
(僕は、何から逃げ遅れたんだろう…。逃げ遅れてはならない何から、僕は逃げ遅れたんだろう)
不吉な思いに絡め取られる。
呪いは今でも生き続けている。