3:危険な海外 〜アンコール・ワット編


とは言ってもそこまで危なくない国だとは思うのですが、まずは賄賂の話から。
立ち入り禁止となっているアンコールワットの中央塔には、10ドルの賄賂を払うことで中に入れてもらうことができます。

賄賂なんてどうやるんだ!とお思いかもしれませんが、興味津々で塔を見上げていたら、目ざとい男が向こうから話を持ちかけてきてくれました。何人かがグルになってるみたいで、金を払うという意思を伝えると「オーケー!」と言って携帯で誰かと連絡を取りはじめる。

頃合いを見計らって、レッツゴーと合図が出されました。カメラを抱えて身を低くし、塹壕を急ぐ歩兵のような格好で石造りの柱廊を駆けていく。スパイアクションみたいでわくわくします!

いい感じの仏像が鎮座している。しかし目立つ場所でカメラをのんびり構えていると、「なにやってんだ、ムーブムーブムーブ!」急かされてしまいます。



辺りは静まり返っており、風の音と鳥の囀りしか聞こえてこない。

アンコール・ワット


ぶらぶらーっと、時間をかけて敷地内を巡ります。(これはラーマーヤナハヌマンだと思われる)




神話の場面が壁面びっしりに刻み込まれた柱廊。こうしたディティールの中にも、隠し部屋のヒントが隠されているかもしれない。



仏教の意匠とヒンディーの意匠が混在してますが、元はヒンドゥー教の寺院として建てられたのだそうです。その後、仏教寺院として使われたりポル=ポト派の要塞として使われたりと数々の遍歴を重ねてきている。

ポル=ポト派は仏教の僧たちをガンガンに撃ち殺し、仏教美術の数々を破壊しました。クメール・ルージュ時代は、仏教徒にとっても長い受難の時代だったわけです。
そうした先入観も手伝ってか、僧たちからは皆、本来の場所に舞い戻ってきたかのような堂々とした頼もしさが感じられました。

アンコール・トム


アンコール・トムの中枢となるバイヨンでは、巨大な顔面が謎めいた笑みを投げかけてきます。上の写真を眺めているうちに、夥しい数の顔が浮かんできてしまって怯えているあなた。けして心の病気や幼少時に受けたトラウマのせいではありませんからネ。


テラスでは神話の出で立ちをした少女たちがお出迎え。ちゃんと絵になってるのがすごいな…。

アンコール・トムの広大な敷地には、いくつもの寺院や観光スポットが点在しています。

上の二枚の写真は、ライ王のテラス近辺にて。
こういう観光地らしい観光地でカメラを首から提げたままほっつき歩いたりしていると…。

「ねェ、アタイたちの写真、撮ってよ!」
世に言う小悪魔系というのとは少し違った意味での、切迫感あふれるベビーサタンたちです。「撮ってあげてもいいけど、後から金品を要求されるのは嫌だな…」と思いつつも、少しハイエナのような印象の彼女らをファインダーに収めることにしました。

「撮ったよ」
「じゃあ、1ドル頂戴!」
「え…、仕方ないなあ。じゃあこれ、ハイ」
「アタイも1ドル!」
「ダメだよ、三人で1ドル! 仲良く分けるんだな」
「やだ、アタイにも頂戴よ!」
「キャンディやるからあっち行きなよ」
「キャンディじゃだめなの。金をよこせ!」
たちまち埒が明かなくなってしまいました。
「そもそも、なんで俺が払うんだよ。撮ってくれって言われて撮ってやったんだから、俺に1ドルくれよな」
俺が言うと、
「ウォーゥ…」

少女たちは、呆れて去っていきました。

シェムリアップの闇の奥


薄闇が迫る中、これまで耳にしたこともないような不気味なサイレンが遠くから響いてきます。ミィィィィンという感じの音で、いわく言いがたい。すごく不安を煽るのです。
トゥクトゥク運転手のクートは、バイヨンに俺を誘いました。

「クート、あのサイレンはなんなの?」
「え…? いつものやつだよ」
クートははっきりとは教えてくれませんでした。

「へいミスター、明日のプランはもう決まったか? 」
「レンタサイクルでうろつこうと思うんだけども」
「自転車か。一人は危ないぞ。この壁を見てみろよ。この弾丸の痕は、武装した軍隊がつけたものなんだ」

「一人は危ないぞ、ミスター。遺跡は薄暗くて、人気のない場所も多い。ホラ、ここだってそうだろ。もし何かあったら、助けてくれるやつなんて誰もいないぞ」

「盗賊に殺されるぞ。今夜の予定はどうだ? 追加料金なしでどこへでも連れてってやるよ。そのあと、ゆっくり明日のプランを決めようぜ」
クートは血走った目玉をらんらんと輝かせていました。

このネガティヴキャンペーンが功を奏し、もう彼とだけは行動しないという決意が固まっていたわけです。


ライトアップされたアンコール・ワットの前で繰り広げられる、アプサラダンス。

ハッピー・ピザ


白人が店先でたむろしていることの多い、さっぱりした印象のピザ屋さん。クートはこの店を知らなかったのですが、同業者や道行く女性に何度も道を聞いたりしながら連れて来てくれました。
店長からは、小袋に入った高菜ふりかけのようなものを売りつけられそうになりました。なぜ高菜…。しかしそんなアクシデントがありつつも、店員の少年がやたらニコニコしながら運んできてくれたピザは普通においしかったです。
満腹になったら完全に意識が飛んでしまって、よっぽど疲れていたんだね。ゲストハウスまで帰ってもらって部屋のベッドに倒れこむと、たちまち眠りに落ちてしまいました。おかげで、一人で街を散歩したり、同宿の日本人と交流したりという旅の醍醐味的な部分がパーに…。

次回は

「目撃!! カンボジアの山奥にある、蝶たちの楽園」の巻です。お楽しみに!