20040715 オルタネート・ユニバースからの移民

 俺は狙い撃ちの達人。世界の未来を決定する、最強の五人の能力者の内の一人だ。並行世界から移民してきたオルタネート軍団千六百名を、クック・ロビン音頭で選別する。並行世界側の俺を寝返らせたうえで聞き出した、必勝の策だ。瓜二つのやつらを見分けるにはこれしかない。やつらはIQがやたらと高いくせして、クック・ロビン音頭の速度には付いてこられないのだ。
「だーれが殺したクック・ロッビン」
 パパンがパン。
 ほらほら遅れた。奴らは知能と引き替えに、動物的な本能を捨て去ったと聞く。リズムという概念がまるで理解できていないのだ。
 選別が終わるまではワンフレーズもあれば充分だ。奴らは純朴なので、罠にかかったという事実にさえ気が付いていない。哀れなもんだ。


 バベルの塔は、螺旋を描きながら天上世界へと昇っていく。誘い込みに成功した俺は、高台に潜んでライフルを構えた。ここが奴らの墓場となるのだ。
 そこへ”あいつ”が入ってくる。並行世界にもちゃっかり存在していた、五人の能力者の内の一人だ。わずか8歳ながら、あいつは不世出の天才にして能力者の中でも別格だった。生かしておけば、こちら側へのダメージは避けられない。
 俺はためらわずにトリガーを引いて、入り口に仕掛けた爆薬を撃ち抜いた。弾丸が爆薬に到達するまでのわずかな間に、あいつは傍にあった大きな籠を拾いあげていた。
 何かをしようとしたんだ。その籠で、この俺に対して。何かをしでかすつもりだったんだよ。あいつはとっくに俺の作戦を見破っていた。あんな籠を使って、この俺に勝利する方法を思いついたとでも? バカバカしい空想だが、それでもあいつならやりかねない。どちらにしろ、天才ならぬ身にはあいつの発想は理解不能だ。
 あいつは、手足だけを残して粉微塵に吹き飛んでしまった。地べたに転がった籠には血糊が貼り付き、ゲル状の細かい紐みたいなものが無数にぶら下がっている。
 だが、聞いてくれ。俺はあいつのことが嫌いじゃなかった。俺は心の中であいつに語りかけた。
 ごめんな、お前には恨みはない。こちら側のお前と俺とは、幼い時分から運命を共にしてきた兄弟だったもんな。殺すのはしのびないが、仕方なかった。もっとゆっくり話していたかったよ。
 爆発による死傷者はかなりの数に上った。そしてあいつが短か過ぎる生涯を閉じた瞬間、こちら側の勝利はほぼ確定したのだった。


(※その後、こちら側の世界の”あいつ”やあちら側の”俺”と会話するエピソードでもあれば感動的だったんでしょうが、夢はそこで醒めてしまいました。
 ちなみに、主人公の外見は次に描いた通り。ウェーブのかかったロン毛はグレーでぼさぼさで、前髪は目の上まで来ています。足下まである薄汚れた灰色のローブを着ている。我ながら汚らしい格好だと思っていました)